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「お前はもっと伸びる奴だと思ってた」と教師に言われた



部活を引退する間際に言われたことだ。




「お前はもっと伸びる奴だと思ってた」





どうしようもない否定の言葉だった。その言葉は私の頭のネジを錆びつかせた。「すみませんでした」と空っぽの心でつぶやいた。


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そこそこ伝統のあるそこそこ強い部活だった。顧問であるその教師はその界隈ではみな知っていた、部活にとことん精力的な教師だった。エネルギーが有り余り家にいることが苦痛だった思春期の子供達にとってそこは居場所であり自身の存在意義であった。私もその一人であった。

朝練昼練夕練は当たり前だった。何も考えず身体を動かしているのは父を失ったばかりの私にとって救いだった。藁にも縋る思いで走り続けた。従順で熱心な生徒とその教師は相性がよかった。従順で熱心である自分に価値を感じていた。思春期という曖昧な時期を満たすには充分だった。何も考えずにすむ時間は今になって思えば甘い地獄だ。


従順で熱心な生徒はこの教師についていけばなんとかなるという根拠のない自信を抱いていた。自分自身と向き合うことから離れ盲信的に教師を崇拝した。これはある種の宗教だ、そう気づくのは何年も先の話。



私の代は思うような成績を残せなかった。伝統は誇りであり重圧。重圧に負けた。自分を情けなく思った。崇拝した主の思いに応えることができなかった自分の愚かさに泣いた。


引退式がはじまり教師からひとりひとりに言葉を贈られた。「○○はいつも声出しを頑張っていた」「☆☆はなんだかんだありながら良く退部せずに続けた」。私も同様に賛辞を浴びこの道に進んでよかったのだと自分を褒めた。


引退式が終わり教師と二人きりになる時間があった。私は言った、「期待に応えられなくてごめんなさい。もっと頑張れたと思います。」
そして教師は言った。「お前は一番努力していた。縁の下の力持ちのような存在だった。だから期待していた部分も大きかったけど、お前はもっと伸びる奴だと思ってた」










私はまだ他人からの評価を気にする。自信もない。自信がなくなると教師の言葉を思い出す。何度も何度も思いだしてきたんだ。ひと一人の言葉は重たい楔だ。